サンデー・インタビュアーズ

サンデー・インタビュアーズ

わたしの場合

佐伯研

佐伯研2021-2022年度メンバー

1967年生まれ。世田谷区太子堂に20年ほど在住。サンデー・インタビュアーズに参加する以前から、モノクロの写真や映像に関心をもっている。見知った町の写真や映像の細部を観察しては、かつての町並み、暮らしぶりに想像を巡らせている。

2021年度の〈きく〉

No.66『理容店2』02:43No.66『理容店2』02:43

映像の左側にスーパーカブらしき二輪車が写っている。そういえば、友達に寿司屋の子がいて、一緒にどこかに遊びに行った帰りに夜遅くになってしまったことがありました。その子のお父さんが夜道を心配して、出前用のスーパーカブに荷台に僕を乗せて家まで送ってくれた。寿司桶に載せる荷台にチョコンと座れるくらい身体が小さかった頃の話です。

ワークショップを振り返って

ワークショップでは、他の人も同じ映像を見ているのに「あ、そういう見方もあるんだな」とか「そこに着目するんだ」と思うことが多々あって、自分だけでは見えないものが見えるようになりました。映像を見ていると、次から次へと記憶が連鎖して、芋づる式にいろんなイメージが浮かび上がってきました。ワークショップに参加しなかったら、おそらく死ぬまで思い出せなかったと思うようなことが、映像として浮かんできたんです。かつて自分がどんな風景を見たのか、どんなことを考えていたのか、何にワクワクしたのか。そんなことをあらためて思い出して、自分の過去をもう一度旅するような、そんな感覚です。これからの人生を歩んでいくときに、自分の過去を見つめ直すひとつのきっかけになりました。

2022年度の〈きく〉

No.74『松陰神社、双葉園、雪の日』09:50No.74『松陰神社、双葉園、雪の日』09:50

松山へ先祖参りの旅をしたことをきっかけに、世田谷クロニクルの映像と重ね合わせながら、祖父や父、僕自身の東京での暮らしぶりの変化を追ってみようと思いました。このフィルムにあるように、当時どの家にも炬燵がありました。そして定番の炬燵用テーブルの裏面は必ず麻雀仕様の緑のフェルト地でした。それだけ家庭麻雀が一般的だったのです。麻雀には煙草と酒と賭けがつきものですが、父は「賭け麻雀は好きじゃない、ズルして勝つ人がいるから」とボヤいていたのを思い出します。当時、家には和装の人がいました。僕の叔父もそうでした。ビールは缶ではなく瓶。僕の家も瓶ビールを酒屋から箱買いしていて、家の外に置いてあったなあ。

No.74『松陰神社、双葉園、雪の日』 10:44No.74『松陰神社、双葉園、雪の日』 10:44

大人たちが麻雀に興じるころ、子どもたちは別の部屋で炬燵に入ってごはんを食べています。まさに同じような光景が僕自身の記憶にもあります。「炬燵」で思い出したことがあります。父は、床に座るタイプの炬燵だと寄りかかれないので、ソファセットから直接炬燵に入れるように、炬燵の脚を高くした炬燵台を自分で作っていました。ソファに寄りかかりながら炬燵の火に当たれるので、大変快適だった。家に来たよその人たちからも大好評。父のちょっとした発明だったと思っています。

No.83『餅つき』13:10No.83『餅つき』13:10

親戚でもない父親同士が地域で集まるというのは、当時の東京では珍しいことだったと思います。少なくともうちの近くでは、こうした地域の集まりはなかった。このフィルムの映像には音声も記録されています。「最近運動不足でねえ。このあいだ会社でバレーボールをやったんだけど、体がまったく動かなかったよ」。会社でバレーボールとは、まさに家族的牧歌的昭和のサラリーマン。谷原吏『〈サラリーマン〉のメディア史』によれば、植木等がスーパーサラリーマンを演じた映画「日本一シリーズ」に、会社の同僚が昼休みに屋上でバレーボールに興じている場面があるとのこと。主人公の植木等は、階段のところに転がってきたボールを同僚にわからないように屋上から蹴り飛ばしてしまうのです。

ワークショップを振り返って

部屋を片付けていて、ふとした拍子に自分や奥さんの若い頃の写真を見つけてしまったとき、まるで別人に見えて驚くことがあります。日々、少しずつ変化していることに気付かないからです。世田谷クロニクルのフィルムを見ると、同じような感覚になります。よく知っているはずの日本社会なのに、まるで違う世界の出来事に見える。社会はいつの間にか変わってしまったけれど、一方で変わらないものも確かに存在します。同じ屋根の下で暮らし、一家だんらんで食事をし、おしゃれして笑う、そういったごく平凡な生活の細部は何も変わっていない。懐かしさを感じるのは、変わらぬ細部であり、すべては“時”続きなのです。

ワークショップ内での発表をもとに、その一部を抜粋して事務局(AHA!)がまとめました。ライターの橋本倫史さんによる〈きく〉のドキュメントをnoteに掲載しています。
「子どもたちはどういう暮らしぶりをするのかな」──佐伯さんの発表